いろり


ずいぶん昔。高松市西ハゼ町にある久米寺という寺を預り住んでいた。
久米寺は旧国道と古い街道に挟まれ、周りは多種の町工場があり騒がしかった。
せめて、内心の静寂を求めて囲炉裏を無理矢理造った。
座を剥ぐり、ブロックで搗き挙げ固め、土を入れ、炉縁を設え、灰を入れ、天井を抜き、自在鉤を作り吊るし...。
山に出向き、木を調達してきて喜び勇んで取り組んだ。
囲炉裏で生活していた友人の手ほどきを受け、やたらと煙たい囲炉裏はほどなく完成した。

生の炎は私を含め多くの客、旅人を癒し、魅了した。
たまにフラリと訪ねて来る、ある方はいつも愚痴を混ぜながらさまざまな質問をしてくる。
少々の事では承知せず、汲み取るのに難儀していたが炎を挟めば楽だった。
彼は火を眺めながら独りで喋り、考え、膝を打ち納得していた。
私は火の案配の合間にたまに頷いていれば用が足りていた。

久米寺にはキツネに取り憑かれたから「助けて」とか昨日から「何も食べていない」からとか「お金を」...とかの来客もよくあった。
囲炉裏を挟んで持て成せば、話が弾んだかもしれぬが管理人の分際の為、秘密裏に造った囲炉裏は公にはできず直接仕事(宗教活動?)には使えなかった。残念。




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